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社会の高齢化と食の減少

 我々日本人は、大まかに言えば、1日当たり1㎏以上(加工品を生鮮原料に換算して1日の需要量を計算すると1.5㎏を超える)の物を食べ、2㍑以上の水を飲む。もちろん、この量は年齢に応じて異なる。それゆえ、社会の高齢化に応じて総消費量も異なる。そこで以下では、日本社会の高齢化につれて食の消費量がどのように変化しつつあるかを概観してみよう。

高齢化の深化

 厚生労働省によれば高齢者とは65歳以上であり、74歳までが前期高齢者、75歳以上が後期高齢者と言われる。この高齢者の人口が目に見えて増え始めたのは1980年前後以降であった。70年代末に高齢者人口は日本の歴史の中で初めて1千万人を超えたが、10年後の80年代末には早くも1千5百万人に近づいたのである。ただし、80年代においては高齢者の中心はまだ前期高齢者であった。 ところが、1990年代になると、前期高齢者と共に後期高齢者の増加も目立つようになった。後期高齢者人口は90年に6百万人、2000年に9百万人、そして2010年には1千4百万人を上回った。 当然、人口に占める高齢者比率、後期高齢者比率は上昇した。日本の総人口に占める高齢者比率は1980年の9%から2010年の23%へ、また高齢者の中での後期高齢者比率は同期間に34%(総人口に占める比率は3%)から48%(同11%)へと上昇した。 日本の高齢化は1980年前後から明確化し、90年代以降さらに一段と深まったのである。

摂取熱量の顕著な減少

 では、高齢化によって消費量はどう変わるのか。そのことを把握するために作成したのが図1の年連階層別の1人当たり平均摂取熱量である。ここでの摂取熱量とは実際に食べてお腹に入れた食物のエネルギー表示であるが、その年齢階層別格差を消費量の違いとみなしても大きな問題はないであろう。 この図によると、20歳代以降に限れば、男女とも摂取熱量は60歳代まで(女性の場合は70歳代前半まで)ほとんど変わらない。男性の場合は1人1日当たり2,100kcal代であり、女性の場合は1,700kcal前後である。 しかし、男性は70歳代前半になると2,080kcalとなり、75歳以上になると2,000kcalをも割り込む。一方、女性は70歳代前半まで大きな違いはないものの、75歳以上になると1,500kcal代にまで落ち込む。 すなわち、後期高齢者が増え、高齢化が一段と進むと、その社会の1人当たり平均摂取熱量すなわち平均消費量は必ず減少すると言える。

消費量の横這い・減少

 そこで、1人当たり平均消費量の変化を品目別に経時的に見たのが図2である。 これによれば、日本社会の高齢化が一段と進んだ1990年代半ば以降、1人当たり消費量が増加傾向にある品目は一つもない。顕著な伸びを示していた肉類、牛乳・乳製品、油脂類のいずれも同半ば以降は横這い傾向である。それどころか、過去10年間に限れば、牛乳・乳製品と油脂類は減少の兆候さえ現れ始めたかのようである。 それら以外の品目に目を転じると、魚介類は2001年をピークに明らかな減少傾向に転じたと判断できる。果実も05年をピークに緩やかではあるものの、減少傾向に転じたとみて間違いなかろう。 ちなみに、米の消費量は早くも1960年代半ば以降、顕著な減少傾向であるが、これは日本人の食生活が米から肉や牛乳等へシフトしたことに加え、同年代以降の急速なモータリゼーションによって多くの人が歩かなくなったため、必要とする摂取熱量が減ったことが大きいと考えられる。もちろん、近年は高齢化の一層の深化による摂取熱量の減少も影響していよう。また、野菜消費量の減少は米消費量の減少に伴って漬物消費量が減少したことによるものとみられる。 こうした1人当たり消費量の減少・停滞は、総人口がその減少率等を上回る比率で増加しない限り、食料全体ではもちろんのこと、品目別総消費量においても増加につながることはない。それどころか、日本では2010年を境に人口の減少が始まったことから、今後、品目別でも全体でも総消費量は1人当たり消費量の減少率を大きく上回って減少することになろう。​​


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