自給率が向上したきのこ -食料の安全保障に関連して-
- 藤島 廣二
- 2015年6月1日
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ここのところ、農産物・食料品の輸入あるいは食料の安全保障に関する議論がかまびすしい。ある人は「自給率が低下するからTPPやFTAなどの輸入自由化には反対だ」と言い、またある人は「生産規模を拡大すれば大丈夫だ」と言う。が、いずれも、日本の農業は現在のところ外国よりも弱く、それゆえこのままでは貿易の自由化で国内農業が衰退し、食料自給率が低下する、という見方では一致しているように思われる。
私もそうした意見に真っ向から反対するつもりはない。しかし、国産農産物がことごとく、現状のままでは外国産に負けてしまうかのように言われると、決して首肯することはできない。
実はこれまで国内での生産量が着実に増加し、21世紀に入ってからは自給率が増加した農産物が存在するのである。それは「きのこ」である。
周知のように、きのこの中の中心品目である生しいたけは、2001年に日本政府が発動した暫定セーフガードの対象品目の一つであった。要するに、輸入量が短期間に驚くほど増加した品目であった。どれほど増えたかというと、1990年まではせいぜい1,000㌧程度にとどまっていた輸入量が、2000年には何と40倍以上の40,000㌧超に達した。この結果、確かにしいたけの国内生産量は減少した。
が、生しいたけの輸入が急増し、国内生産量が減少した時でさえ、図に示したように、きのこ全体の生産量は増加傾向を保ち続けていた。そして、21世紀に入り、しいたけの国内生産量が下げ止まり傾向を帯びるようになると、自給率は明らかな上昇傾向に転じた。
きのこの国内生産量が増加し続け、21世紀に自給率が上昇に転じた要因は、決して少なくはないであろうが、筆者が主因と考えるものの一つは、国産きのこの種類の多様化(多品目化)である。かつては「きのこイコールしいたけ」と言っても過言ではなかったものの、今ではそう捉える人はほとんどいないほど種類が増えた。すなわち、消費者にとって「選ぶ喜び」・「食べる楽しさ」が増したのである。
もうひとつの主因は、新たに普及した品目のほとんどで、価格がしいたけを下回っていることである。驚くことに、えのきだけやなめこなどのように、1㎏当たり単価がしいたけの3分の1程度にすぎないものさえある。消費者にとってきのこは買いやすい商品になったのである。
こうしたきのこの動向とその要因は、今後の日本農業のあり方を考える上で、ひいては食料の安全保障を考える上で、重要な示唆を与えているように思えてならない。

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