卸売市場の社会的役割
- 藤島 廣二
- 2015年6月8日
- 読了時間: 2分
前々回のコラム(7回目のコラム)において、農産物(生鮮青果物、花き)が生産者または農協から消費者の自宅に届くまでのトータル・コストを考えると、生産者と消費者が直接取引する生産者直売所(ファーマーズ・マーケット)のような流通システムよりも、卸売市場を通って小売店で販売する流通システムのほうが流通コストが安くなることを説明した。このコラムを読んで、「卸売市場って、これまで邪魔ものとばかり思っていたけど、意外と社会に役立っているんだ」と認識を改めて下さった方も少なくないと思う。 が、実は、卸売市場はコスト面だけで役立っているわけではない。それと同等、あるいはそれ以上に重要な社会的役割も果たしている。それは国内生産の維持や生活の豊かさに関連したものである。 それを説明するために、まず卸売市場の荷受状況をみると、生産者(出荷者)が誰であろうと卸売市場は出荷を受け入れるし、また出荷量の多少にかかわらず全量を受け入れる。これに対し、量販店の物流センター(集配センターとも称される)は契約生産者の荷を受け入れるけれども、それ以外の生産者の荷を受け入れることはない。また、契約生産者の生産量が好天で急増したとしても、契約量以上を受け入れることもない。しかも、卸売市場へ出荷した場合、代金の支払いは請求活動をしなくても、通常、1週間以内に行われる。したがって、卸売市場が存在することで、量販店との契約があろうとなかろうと、国内の生産者は売れ残りを心配することなく、また代金回収も心配することなく、生産に全力を投入することができる。このことが国内生産の維持を可能にし、生産者の高齢化等による生産力の急速な低下を防いでいると言えよう。 一方、小売業者等への販売(荷渡し)状況をみると、卸売市場は仕入れに来た小売業者等を分け隔てすることなく、誰に対しても販売する。これは量販店の物流センターが系列店舗にだけ分荷するのと大きく異なっている。それゆえ、卸売市場が存在することで誰もが仕入れでき、小売業等を営むことができる。そのため、卸売市場が衰退した欧米諸国に比べると、日本では小売部門の寡占化の程度がきわめて低い。その結果、消費者は品物を選ぶことができるだけでなく、購入先の店舗さえも選ぶことができ、品質の良い物を比較的安く購入できることになる。小売部門の寡占化が進んだ国々に比べると、我々の食生活はずっと豊かであろう。
Comments