優れた流通システムは直売所?卸売市場・小売店? ~「見えない」・「見えづらい」流通コスト~
- 藤島 廣二
- 2015年6月6日
- 読了時間: 3分
前回、商品購入後の流通コスト(消費者が商品の価格以外に支払わなければならないコスト)は「見えない」あるいは「見えづらい」ものであるため、流通に関する大きな誤解が生じていると指摘したが、今回はその誤解を生鮮野菜の「生産者直売所販売(生産者と消費者の直接取引)」と「卸売市場経由の小売店販売(生産者と消費者の間に卸売市場と小売店が介在する取引)」を事例に説明したい。
本コラムの大半の読者は生産者直売所(ファーマーズ・マーケットと呼ばれることもある)へ行った経験を持っていると思う。しかも、そこに並ぶ野菜を見て、新鮮そうだと思うと同時に、価格が小売店(スーパー・マーケット等)より1~2割ほども安いと感じ、「直売所の流通システムは卸売市場経由・小売店販売の流通システムよりも優れている」と思い込んでいる人も少なくないであろう。
しかし、現在、直売所で販売されている生鮮野菜の数量(卸売市場からの仕入品を除く)は、私の推計では全国の合計で1年間に50万トン程度、他の人の推計でも多くて100万トン前後である。これに対し、全国の卸売市場で取引される生鮮野菜の年間数量は1,000万トン前後。ただし、この中にはレストラン等の業務用需要者に卸売市場から直接販売される分もあるので、小売店の卸売市場からの仕入量は700万~800万トン程度と推測されるが、それでも直売所の7~8倍から15倍前後にのぼる。つまり、消費者のほとんどは普段は直売所ではなく、小売店を利用しているのである。
なぜ「直売所の流通システムは優れている」という思いと実際の行動とが違ってしまうのであろうか。それは「見えない」・「見えづらい」流通コストの存在によるものであろう。
生産者直売所の場合、田園地帯(田舎)に立地しているのが普通である。そのため、人口が少ないこともあるが、地元の人の中には同じような農産物を作っている生産者も多いので、販売額を上げるためには遠く離れた地域からも人を呼ぶようにしなければならない。すなわち、商圏が広くなければならない。例えば関西で有名な「めっけもん広場」という直売所は和歌山県紀の川市に位置するが、大阪市や神戸市からも多くの人々が買い物に訪れ、その商圏は半径50㎞以上、100㎞近くに達するとのことである。
仮に50㎞離れているところから直売所に自家用車で買い物に行くとなると、往復の走行距離は100㎞。ガソリン代は約1,000円。自動車の償却費等は前回(第6回)のコラムで述べたように1㎞で20円とすると、2,000円。そして人件費は1時間1,000円で計算すると、少なくとも3,000円。すなわち、「見えない」・「見えづらい」流通コストの合計はざっと6,000円ほどになる。これは1㎏当たり300円の野菜を10㎏買ったとしても、実際に支払わねばならないトータルコスト(購入価格+「見えない」・「見えづらい」流通コスト)は1㎏当たり900円にのぼることを意味する。
これに対し、小売店(卸売市場から野菜を仕入れて販売している小売店)の場合、デパートや大型ショッピングモールは別としても、小規模な小売店やスーパー・マーケットの商圏は通常、半径1~2㎞以内である。仮に2㎞離れたところから自家用車で買い物に行くとすると、走行距離は4㎞で、ガソリン代は40円。自動車の償却費等は80円。人件費は500円前後。合計で700円以内で済む。となると、直売所と同じような野菜を仮に1㎏当たり400円の価格で2㎏だけ購入したとしても、トータルコストは750円ほどにとどまる。 こうしたトータルコストの違いを、多くの人の場合、「直売所へ行くのは手間がかかる」などといった形で何となく感じ取っているからこそ、普段は小売店から購入することになるのであろう。しかし、目に見える価格だけで判断してしまうと、「直売所の流通システムは卸売市場経由・小売店販売の流通システムよりも優れている」ということになってしまうのである。流通システムを理解する難しさがここにあると言えよう。
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